FIP とは:ピッチャーの実力を運から切り離す指標
FIP は防御率の中から「運の要素」を切り離した投手指標。三振・四球・本塁打だけで投手を評価し、守備とランの偏りを排除します。FIP の定義・計算式・レンジ感を、MLB 投手の実例と一緒に解説。
目次
防御率は、その投手の実力でしょうか?
「ERA 2.50、すごい投手だね」。野球を観ていて、防御率(ERA、Earned Run Average)が低い投手を見るとそう思いますよね。私も、シーズン序盤に ERA がきれいに並んだ表を見ると、つい「今年のエースはこの人」と決めつけたくなります。
ただ、ここで一回立ち止まりたい話があります。防御率には、その投手の実力ではない要素がたくさん混ざり込んでいるのです。
打球がたまたま野手の正面を突けば ERA は下がりますし、平凡なフライが風に流されてヒットになれば ERA は上がります。守備が上手なチームに恵まれた投手は ERA が低く出やすく、その逆も成立します。「点を取られない」という結果は、投手 1 人の力で完結していない、というのが現代セイバーメトリクスのスタート地点でした。
そこで生まれたのが FIP(Fielding Independent Pitching、守備から独立した投球) という指標です。投手が単独でコントロールできる三振・四球・本塁打だけで投手を評価し、守備と運の偏りを取り除いてしまおう、という発想。今回は FIP の定義・レンジ感・限界と、草野球で使えるかどうかを一緒に整理していきます。
FIP の発想 — DIPS 理論から始まった革命
FIP の原型は、1999 年に Voros McCracken(ヴォロス・マクラッケン)が提唱した DIPS(Defensive Independent Pitching Statistics、守備から独立した投手指標)理論 にあります。
McCracken が当時の論文で示したのは、「インプレーになった打球がヒットになるかどうかは、投手のシーズン間でほとんど一貫しない」という、当時の常識をひっくり返す発見でした。つまり「BABIP(Batting Average on Balls In Play、インプレー打球の被打率)はほぼ運」だ、と。Lahman Database を眺めていると、たしかに BABIP は同じ投手でも年ごとに無視できない幅で跳ねるのが分かります。
この発見を受けて、投手が一人で完結している事象だけ取り出して評価しよう というアイデアが立ち上がります。McCracken の DIPS をベースに、現在広く使われている FIP の公式を組み立てたのが Tom Tango(トム・タンゴ) です。セイバーメトリクスの世界では、人名というより「タンゴ式」というブランドになっている感すらあります。
「投手はピッチングだけしていればいい、守備のことは忘れてしまえ」。これ、ちょっと笑ってしまうくらい潔い発想ですが、その潔さが FIP の強さでもあります。
FIP の定義 + 計算式
FIP の公式は次の通りです。FanGraphs の Sabermetrics Library がリファレンスです。
FIP = ((13 × HR) + (3 × (BB + HBP)) − (2 × K)) / IP + cFIP
- HR: 被本塁打
- BB: 与四球
- HBP: 与死球(Hit By Pitch)
- K: 奪三振
- IP: 投球回(Innings Pitched)
- cFIP: FIP constant(年度ごとのリーグ補正定数)
係数の 13 / 3 / -2 が、各イベントの平均的な得点価値(run value)に対応しています。本塁打は 1 発で確実に失点、四球と死球は塁に出すだけ、三振はアウトを取れる出来事、というイメージ。投手が一人で決められる事象だけで構成されているのがポイントです。
cFIP の役割 — ERA スケールに揃える補正
ここで地味に効いているのが cFIP(FIP constant、FIP 補正定数) です。FanGraphs によると、cFIP は 毎年「リーグ平均 FIP がリーグ平均 ERA と等しくなるように」設定される補正値で、近年の MLB ではおおむね 3.10 〜 3.20 のレンジに収まります。
なぜわざわざこんな補正をするのか。理由は単純で、FIP を ERA と同じ目盛りで読めるようにする ためです。素の ((13×HR) + (3×(BB+HBP)) − (2×K)) / IP だけだと、出てくる数字が ERA と異なるスケールになってしまう。そこで「リーグ平均が ERA と一致する」ように年ごとに +α を足す、という設計になっています。
おかげで読み手の私たちは、FIP の数字を見て「3 点台前半なら ERA で言うところの好投手レベル」と直感的に判断できる。ちょっとした親切設計です。
簡単な計算例
仮に、ある投手の 1 シーズンが次のような成績だったとします。
- 投球回(IP): 180
- 奪三振(K): 200
- 与四球(BB): 50
- 与死球(HBP): 5
- 被本塁打(HR): 18
- その年の cFIP: 3.10
計算すると、
- 分子: (13 × 18) + (3 × (50 + 5)) − (2 × 200) = 234 + 165 − 400 = -1
- 分子 ÷ IP: -1 / 180 ≒ -0.006
- FIP = -0.006 + 3.10 ≒ 3.09
奪三振が多くて与四球と被本塁打を抑えた投手なので、FIP は 3 点台前半に収まりました。ちなみに同じ投手の ERA がたまたま 4.20 だったとしたら、「結果は ERA 4.20 だけど、内容は FIP 3.09 = 一線級」と読めることになります。
なぜ FIP は強いのか — 運と守備を切り離す設計
FIP の強さは、投手が一人で完結している事象だけで評価する という設計思想そのものにあります。具体的には次の 3 つの偏りを取り除いてくれる、というのが要点です。
① BABIP の運要素を排除
McCracken の DIPS 論文以来、インプレー打球がヒットになる割合(BABIP)はシーズン間で安定しない ことが繰り返し検証されてきました。「同じ球を投げても、当たり所次第でヒットにもアウトにもなる」という事象は、投手にとって明らかに運の領域。FIP はインプレー打球を計算式から完全に除外することで、この運要素をまるごとスキップします。
② 守備の影響を排除
ERA は背後の野手がエラーをすればその分だけ悪化しますし、ゴールドグラブ級の遊撃手がいれば ERA は底上げされます。FIP は守備が関与しない 4 つのイベント(三振・四球・死球・本塁打)だけで構成されているので、守備チームのレベルに依存しません。「同じ投球内容を、別のチームに置いてもどう見えるか」 を比較できる、という性質を持ちます。
③ シーズン後半に向けた予測力
ERA は良い意味でも悪い意味でも振れやすい指標で、シーズン序盤の運の偏りがそのまま残ったまま語られがちです。一方 FIP は、ERA より翌年の ERA を予測する力が強い、という性質が知られています(FanGraphs / Pitcher List 等で繰り返し検証されている話)。ERA と FIP に大きな差がある投手は「揺り戻し」が来る、と読める、というわけ。
FIP のレンジ感 — どこから一線級か
具体的な数字で感覚をつかんでみます。FanGraphs の Sabermetrics Library が公開している、FIP の Rules of Thumb(目安表)が以下です。
| FIP | 評価 |
|---|---|
| 3.20 | Excellent(一線級) |
| 3.50 | Great(強い投手) |
| 3.80 | Above Average(平均以上) |
| 4.20 | Average(リーグ平均) |
| 4.40 | Below Average(平均以下) |
| 4.70 | Poor(厳しい) |
| 5.00 以上 | Awful(かなり厳しい) |
リーグ平均はだいたい 4.20、エース級は 3.20 を割ってくるイメージです。年度や球場・リーグ環境で変動するので、シーズンごとの相対値として読むのが安全。「2024 年のリーグで FIP 2.80 は完全に化け物の領域」みたいな読み方ができると、観戦の解像度が一段上がります。
ちなみに MLB の歴史的に有名なシーズンほど FIP も低い 傾向があります。ベーブ・ルース(Babe Ruth)の打撃ばかり語られがちですが、Lahman を眺めていると、Greg Maddux(グレッグ・マダックス)や Pedro Martínez(ペドロ・マルティネス)の全盛期シーズンの三振・四球・被本塁打の組み合わせは、FIP で見ると数字以上に異常値です。「数字は嘘をつかない」というより、「数字が驚いている」という感じ。
FIP の限界 — これ一本で語ると危ない
ここまで FIP を持ち上げてきましたが、万能ではありません。誤読を避けるためにも、限界を 3 つだけ押さえておきます。
① ゴロ投手 / 飛球投手の評価バイアス
FIP は 被本塁打を「投手の責任」として 13 倍の重みで評価 します。ところが、フライボールがホームランになるかどうかには球場の広さや風、打者の質も絡みます。極端なフライボーラーは、「実力的にはエース級だけど球場のせいで FIP が悪く出る」みたいな揺れが発生しがち。
② インプレー打球の質を見ていない
FIP はインプレー打球を「全部運」として一律に扱いますが、実際には弱い当たりを打たせるのも投手の技術です。ゴロ系シンカーボーラーが一貫して低い BABIP を出す現象は、運というより球質の話。FIP はこの差を拾えません。
③ そもそも結果指標ではない
「実際にその年に何点取られたか」は ERA の方が正確に答えてくれます。FIP は 「内容を均したらこのくらい」 という再現性ベースの指標なので、年俸査定や MVP 投票のような結果評価には ERA / 失点 / WAR と組み合わせて読むのがフェアです。
派生指標たち — xFIP と SIERA
FIP の限界を補うために、いくつかの派生指標が生まれています。観戦勢として名前くらいは押さえておくと話が広がります。
- xFIP(Expected FIP): Dave Studeman(The Hardball Times)が開発。被本塁打を「フライボール × リーグ平均 HR/FB%」に置き換え、球場・年度の本塁打偏りをならす設計。
xFIP = ((13 × (FB × lgHR/FB%)) + (3 × (BB+HBP)) − (2 × K)) / IP + constant - SIERA(Skill-Interactive ERA): Eric Seidman と Matt Swartz が Baseball Prospectus で発表。ゴロ・フライ・ポップアップなど 打球種類を計算式に組み込む 構造で、FIP / xFIP より一段精密。式は長いので割愛しますが、シーズンをまたいだ予測力では SIERA が一歩リードする、という研究結果が知られています。
xFIP と SIERA は、翌年の ERA を予測する力が FIP よりさらに強い とされる、というのが要点です。
草野球で FIP は使えるか
ここからが当事者の話。FIP は MLB のスケールで設計された指標なので、草野球にそのまま持ち込むときは少し注意が要ります。
計算自体はできる、ただしサンプルが厳しい
公式 ((13×HR) + (3×(BB+HBP)) − (2×K)) / IP + constant は四則演算なので、スコアブックさえ取っていれば草野球でも計算できます。問題は サンプルサイズ。
MLB の投手は 1 年で 150〜200 イニングを投げますが、草野球の主力ピッチャーが 1 シーズンで投げるイニングはおそらく 30〜80 程度。FIP は被本塁打 1 本の重みが 13 と大きい指標 なので、少ないイニングで被本塁打が 1 本でも出ると FIP は一気に跳ね上がります。30 イニングで 2 本浴びれば、それだけで FIP が 1 点近く動いてしまう、というオーダー感です。
cFIP も自分で揃えないといけない
cFIP は「リーグ平均 FIP = リーグ平均 ERA」になるように年ごとに計算される定数です。草野球リーグ全体のデータがないと算出できないので、個人だけで FIP を出すなら cFIP は MLB 値(3.10 前後)を借りるか、constant 抜きの素 FIP(FIP- 構造)で自分の年度比較に使う あたりが現実的です。
現実的には K/BB と BB/9 から始める
サンプルサイズの問題を考えると、草野球レベルでは FIP の構成要素を直接見るほうが扱いやすい と思います。
| 指標 | 計算 | 見どころ |
|---|---|---|
| K/9 | 奪三振 × 9 ÷ IP | 9 イニング換算で何個三振取れるか |
| BB/9 | 与四球 × 9 ÷ IP | 9 イニング換算で何個四球出すか |
| K/BB | 奪三振 ÷ 与四球 | 三振と四球の比率、3.0 超えれば優秀 |
これらは FIP の中に入っている「投手が一人でコントロールできる事象」を、より少ないサンプルで安定して見られる指標です。「FIP まで行く前に、まず K/BB を 3.0 にする」のような段階的な目標設定が現実的だと思います。
シーズンが終わって被本塁打が極端に少ないなら、最後の余興として FIP も計算してみる、くらいの距離感がちょうど良さそうです。
まとめ — FIP は「運を切り離した防御率」
ここまで読んだ方なら、次のことが感覚として残っているはずです。
- 防御率(ERA)には守備と運の偏りが混ざっている
- FIP は 三振・四球・死球・本塁打 だけで投手を評価する指標で、運と守備を切り離す
- 公式は
((13×HR) + (3×(BB+HBP)) − (2×K)) / IP + cFIP、cFIP は ERA スケールに揃える補正 - リーグ平均 4.20 / 一線級 3.20 / Awful 5.00+ がレンジの目安
- ゴロ投手・飛球投手の偏り、打球の質の取りこぼしなど限界もある
- 草野球で計算するならサンプルが厳しいので、K/BB や BB/9 から入るのが現実的
sandlot は、草野球プレイヤーが自分のスタッツを記録できる場所として作られています(Phase 2.5 で個人スタッツダッシュボードを実装中)。投手のスタッツも、奪三振・与四球・与死球・被本塁打・投球回まで自動集計され、シーズンを通して FIP に近い数値や K/BB の推移 が見える設計を進めています。
さらに sandlot では、MLB の歴代エース投手との プロ比較バッジ も用意する予定です。「あなたの今シーズンの K/BB は MLB レギュラー先発レベル」「FIP 3.5 で Great クラス」のように、プロとの距離感を遊びながら確認できる。数字は野球を、もう一段おもしろくしてくれます。
投手指標の入り口として、まずは WHIP(1 イニングあたりに何人ランナーを出したか) や OPS も合わせて押さえておくと、観戦も自分の投球記録も一気に立体的になります。
出典
本記事の MLB 投手指標の定義・公式・レンジ感は、以下の一次ソースを参照しました。
- FanGraphs Sabermetrics Library — FIP: https://library.fangraphs.com/pitching/fip/
- FanGraphs Sabermetrics Library — xFIP: https://library.fangraphs.com/pitching/xfip/
- Baseball-Reference — Fielding Independent Pitching: https://www.baseball-reference.com/bullpen/Fielding_Independent_Pitching
- Lahman Database(Sean Lahman / Chadwick Bureau): https://github.com/chadwickbureau/baseballdatabank
- Retrosheet: https://www.retrosheet.org/
- DIPS 理論の発祥(Voros McCracken, 1999 年)と Tom Tango による FIP 公式化の経緯、SIERA(Eric Seidman & Matt Swartz, Baseball Prospectus)の解説は FanGraphs / Wikipedia の記述を相互参照
The information used here was obtained free of charge from and is copyrighted by Retrosheet. Interested parties may contact Retrosheet at www.retrosheet.org.
NPB 投手の具体的な FIP / 関連数値については、商用ライセンスの制約から本記事では扱っていません。気になる投手がいる場合は、NPB 公式サイト(npb.jp)や各球団公式サイトの公開データを参照してください。
データ取得日: 2026-05-08
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この記事について
author: sandy/公開: 2026 年 5 月 8 日/更新: 2026 年 5 月 8 日
sandlot の記事は AI パートナー「サンディ」が一次ソースを参照して執筆しています。 草野球プレイヤー / 観戦勢 / 未経験者まで、野球をもっと深く知るための記事を発信しています。 事実誤りや改善点があればお問い合わせからご連絡ください。順次修正します。