WHIP とは何か:草野球ピッチャーが知っておくべき投手指標 5 つ
WHIP は 1 イニングあたりに何人ランナーを許したかを示す投手指標。打撃の OPS と並ぶ、最初に覚えるべき投手の通信簿。草野球ピッチャーが最低限押さえたい 5 つの投手指標を、MLB の数値と一緒に解説します。
目次
防御率だけ見ていませんか?
草野球をやっていると、ピッチャーの良し悪しを語るときに最初に出てくる数字はだいたい防御率(ERA)です。「今年は 3 点台で抑えた」「終盤に崩れて 5 点台になった」。シンプルでわかりやすく、長く愛されてきた指標です。
ただ、防御率だけ見ていると見逃してしまうものがあります。
たとえば、こんな 2 人のピッチャーを想像してみてください。
- C 投手: 防御率 3.00、毎イニング 2 〜 3 人ランナーを背負うが、要所で粘って抑えるタイプ
- D 投手: 防御率 3.00、四球が少なく、そもそもランナーをほとんど出さないタイプ
ERA は同じでも、内容はかなり違います。C 投手は守備や球場、運に救われている部分が多く、来年同じ結果を出せる保証は薄い。一方の D 投手は、自分の力でアウトを積み重ねている、再現性の高いピッチング。
この差を一発で見抜くために生まれた指標が、WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched、1 イニングあたりに許した与四球と被安打の合計)です。打撃で OPS が「打者の通信簿」だとしたら、WHIP は「投手の通信簿」。最初に覚える価値がある、と私は思っています。
WHIP とは何か:1 イニングに何人ランナーを出したか
WHIP は、その名のとおり 2 つの数字の足し算をイニングで割るだけ。
WHIP = (与四球 + 被安打) ÷ 投球回
Daniel Okrent というライターが 1979 年に考案した指標で、当初は "innings pitched ratio" と呼ばれていました(出典: Wikipedia / Baseball-Reference)。シンプルすぎて、初めて見たときには「これだけ?」と拍子抜けするかもしれません。実際、計算は中学校の算数で完結します。
ただ、この単純な割り算が、投手の「ランナーを出さない力」を驚くほど良く近似してくれます。打撃でいう OPS と同じで、足し算の単純さが逆に強い、という指標です。
簡単な計算例
仮に、ある草野球ピッチャーの 1 シーズンが次のような成績だったとします。
- 投球回: 30 回
- 被安打: 25 本
- 与四球: 8 個
計算すると、
- WHIP = (8 + 25) ÷ 30 = 33 / 30 = 1.10
1 イニングあたり平均 1.10 人ランナーを出している計算です。MLB のレギュラー投手と並べると、後で出てきますが、まずまず良い数字。草野球の打線相手なら、堂に入ったピッチングと言える領域です。
ちなみに、エラーで出塁したランナーや死球は WHIP に含まれません(出典: MLB.com Glossary)。あくまで「投手自身の責任で出したランナー」を測る指標、という思想です。
なぜ WHIP は強いのか:防御率より運の影響が小さい
WHIP がここまで広く使われるようになった理由は、防御率より運の影響を受けにくい点にあります。
防御率は「失点 ÷ 投球回 × 9」で計算されますが、失点はランナーが出てから何が起きたかに左右されます。後続の打者が打つかどうか、守備が捕るかどうか、球場が広いか狭いか。つまり、投手が直接コントロールできない要素が混ざりやすい。
WHIP はそれより一歩手前の数字です。「そもそもランナーを出したか / 出さなかったか」だけを見るので、投手自身の能力により近い。ランナーを出さなければ失点もしない、という当たり前の事実を、一つの数字で見える化してくれます。
「ランナーを出さない投手こそ、長期的に失点を防ぐ」。これは、Bill James 以降のセイバーメトリクスが繰り返し検証してきた、投手評価の基本軸です。
投手版の OPS、というポジション
打者の OPS は「出塁率 + 長打率」で、打者の貢献を一発で評価します。WHIP も似ていて、「ランナーを許した数」を一発でまとめる、投手の総合点に近い指標。
OPS と WHIP は 逆方向 に動きます。打者は OPS が高いほど良く、投手は WHIP が低いほど良い。両方覚えておくと、選手評価の解像度がぐっと上がります。
草野球ピッチャーが最低限知っておくべき 5 つの投手指標
WHIP だけ覚えても、関連指標を知らないと数字の意味が立体的に見えません。ここでは、草野球ピッチャーが最低限押さえておきたい投手指標を 5 つ紹介します。
① ERA(防御率、Earned Run Average)
最も知名度のある投手指標。
ERA = 自責点 ÷ 投球回 × 9
「9 イニング投げたとして、平均何点取られるか」を表します。シンプルでわかりやすい反面、守備や球場、運の影響を強く受けるのが弱点。
| レベル | 目安 |
|---|---|
| MLB レギュラー平均 | およそ 4.00 前後 |
| MLB 一線級 | 3.00 を切ると優秀 |
| MLB トップクラス | 2 点台前半 |
| 草野球の主力ピッチャー | 環境差が大きいので一概に言えない |
② WHIP(与四球 + 被安打 / 投球回)
この記事の主役。
WHIP = (与四球 + 被安打) ÷ 投球回
「1 イニングあたり何人ランナーを出したか」を表します。守備運の影響が ERA より小さく、投手の素の力を見るのに向いています。
| レベル | 目安 |
|---|---|
| MLB レギュラー平均 | およそ 1.20 〜 1.30(2024 年は 1.27) |
| MLB 一線級 | 1.10 を切ると優秀 |
| MLB トップクラス | 1.00 を切ると歴史に残るレベル |
詳しいレンジ感は次のセクションで。
③ K/9(奪三振率、Strikeouts per 9 Innings)
K/9 = 奪三振 ÷ 投球回 × 9
「9 イニング投げたら何個三振を取るか」。投手の "決め球の威力" を表します。
K/BB(奪三振 / 与四球比)も合わせて押さえておくと、「球の威力」と「コントロールの精度」を分けて評価できます。FanGraphs では、K/9 が "stuff"(球の質)を、K/BB が "command"(コントロール)を表す指標として整理されています(出典: FanGraphs / MLB.com Glossary)。
| レベル | K/9 の目安 |
|---|---|
| MLB レギュラー平均 | およそ 8 前後 |
| MLB 一線級 | 10 を超えると三振奪取力が高い |
| MLB トップクラス | 12 を超える投手は数えるほど |
④ FIP(Fielding Independent Pitching、守備非依存防御率)
WHIP の弱点(被安打が運に左右される問題)を、より厳密に切り分けたのが FIP です。
FIP = ((13×本塁打 + 3×(与四球 + 与死球) − 2×奪三振) ÷ 投球回) + cFIP
cFIP はリーグごとに ERA スケールに揃えるための補正定数。投手が直接コントロールできる 三振 / 四球 / 死球 / 本塁打 だけで防御率を再構成する、という考え方です。Voros McCracken の DIPS 理論(Defense Independent Pitching Statistics)が元になっています(出典: FanGraphs Sabermetrics Library)。
詳細は別記事「FIP とは何か」で扱う予定。ここでは「ERA から運を抜いた版」とだけ覚えておけば十分です。
⑤ BB/9(与四球率、Walks per 9 Innings)
BB/9 = 与四球 ÷ 投球回 × 9
「9 イニング投げたら何個四球を出すか」。コントロール、というより コマンド の指標です。
草野球レベルだと、ここがそのまま勝率に直結します。打たせて取れるピッチャーでも、四球連発すると試合が壊れる。逆に、ストライク先行できる投手は、たとえ球速が遅くても試合が作れる。
| レベル | BB/9 の目安 |
|---|---|
| MLB レギュラー平均 | およそ 3 前後 |
| MLB 一線級 | 2 を切ると好コントロール |
| 草野球 | 4 〜 5 でも試合は作れる、3 を切れば「四球で崩れない投手」 |
WHIP のレンジ感:MLB / 歴代記録 / 草野球
おおまかなレンジ感をまとめておきます。
| レベル | WHIP の目安 |
|---|---|
| MLB レギュラー平均 | およそ 1.20 〜 1.30 |
| MLB 一線級(先発ローテ上位) | 1.10 前後 |
| MLB リーグトップクラス | 1.00 を切る |
| 歴代単一シーズン最低(Pedro Martínez、2000 年) | 0.7373(217 投球回 / 128 被安打、出典: Baseball-Reference / Wikipedia) |
Pedro Martínez(ペドロ・マルティネス)の 2000 年の WHIP 0.7373 は、これ、ちょっと笑ってしまう数字です。1 イニングあたりランナー 1 人未満どころか、4 イニング投げて 3 人しか出さない計算。歴代でも一握り。Walter Johnson(ウォルター・ジョンソン)が 1913 年に作った 0.7803 という記録を、87 年ぶりに塗り替えた瞬間でした。Lahman Database を眺めていると、こういう「数字の歴史」がそのまま投手の凄みになっていて、過去データを掘る愉しさを感じます。
草野球プレイヤーが自分の WHIP を出すときの目安は、こんな感じが現実的だと思います。
| 草野球の感覚 | WHIP の目安 |
|---|---|
| 「四球で崩れがちな投手」 | 1.80 を超える |
| 「並のピッチャー」 | 1.40 〜 1.80 |
| 「堂に入った投手」 | 1.20 〜 1.40 |
| 「チームの軸」 | 1.20 を切る |
| 「相手から恐れられる投手」 | 1.00 前後 |
注意したいのは、MLB の 1.20 と草野球の 1.20 は環境がまったく違うということ。MLB の 1.20 はメジャー打者を相手にした 1.20、草野球の 1.20 は草野球の打線を相手にした 1.20。自分のリーグ・自分のチームでの位置づけ で考えるのが一番素直です。
WHIP だけでは見えないもの
WHIP は強い指標ですが、万能ではありません。誤読を避けるために、限界も知っておいた方がいい。
投球回が少ないと信頼できない
10 イニングだけの WHIP は、運の振れ幅に大きく左右されます。被安打 2 本の差で WHIP は 0.20 動く。シーズン換算で 50 投球回くらいないと、上下に運の要素が大きく混ざる と思っておくのが安全です。FanGraphs も「WHIP は quick reference(早見指標)であって、本格分析には向かない」と注意書きしています(出典: FanGraphs Sabermetrics Library)。
本塁打の被害が反映されない
WHIP は被安打を 1 本としてしかカウントしません。単打もホームランも、WHIP では同じ重みです。「ランナーは出さないけど一発で持っていかれる投手」は、WHIP は良くても失点はかさみます。ここを補うのが FIP(本塁打を重く扱う指標)。
BABIP の影響
BABIP(Batting Average on Balls in Play、インプレー打球の打率)は、本塁打と三振を除いた打球がヒットになる割合。投手は BABIP を長期的にはほとんどコントロールできない、というのが現代セイバーメトリクスの定説です(出典: FanGraphs Sabermetrics Library)。MLB 平均は約 .300。WHIP が良すぎる / 悪すぎる投手は、BABIP がリーグ平均(.300 前後)から離れていることが多く、来年は揺り戻しが来る可能性があります。
死球は含まれない
これは細かい話ですが、WHIP の式には与死球(HBP)が入りません。当てて出塁を許してもランナーは出ているので、ここはやや不公平とも言えます。MLB.com の Glossary でも明記されています。
まとめ:sandlot で自分の WHIP を記録しよう
ここまで読んだ人なら、次のことが感覚として残っているはずです。
- 防御率だけでは、投手の素の力と運がごちゃ混ぜになる
- WHIP は「1 イニングに何人ランナーを出したか」だけを見るシンプルな指標
- MLB レギュラー平均はおよそ 1.20 〜 1.30、1.00 を切るとリーグトップクラス
- 草野球で 1.20 を切れば、チームの軸になれる投手
- 投球回が少ないと信頼できない、本塁打や死球は別、という限界もある
sandlot は、草野球プレイヤーが自分のスタッツを記録できる場所として作られています(Phase 2.5 で個人スタッツダッシュボードを実装中)。防御率だけでなく、被安打 / 与四球 / 投球回から WHIP まで自動で計算され、シーズンを通して自分のピッチングの傾向が見える。
さらに sandlot では、MLB の歴代投手や現役レギュラーとの プロ比較バッジ も用意する予定です。「あなたの今シーズンの WHIP は MLB レギュラー平均レベル」「1.00 を切ってチームトップクラス」のように、プロとの距離感を楽しみながら確認できます。
数字は野球を、もう一段おもしろくしてくれる。防御率の先にある世界に、ここから一歩踏み込んでみてほしいな、と思います。
出典
本記事の MLB 選手の数値・レンジ感・指標定義は以下のオープンデータベースおよび一次ソースを参照しました。
- Lahman Database(https://sabr.org/lahman-database/)— MLB 年度別成績を 1871 年から網羅したオープンデータベース、CC BY-SA 3.0
- Retrosheet(https://www.retrosheet.org/)— MLB の play-by-play データ、表記要件付きで再配布可
- FanGraphs Sabermetrics Library(https://library.fangraphs.com/pitching/whip/)— WHIP の定義と運用上の注意点
- FanGraphs Sabermetrics Library(https://library.fangraphs.com/pitching/fip/)— FIP の定義と算出式
- FanGraphs Sabermetrics Library(https://library.fangraphs.com/pitching/babip/)— BABIP の定義と投手評価上の意味
- MLB.com Glossary(https://www.mlb.com/glossary/standard-stats/walks-and-hits-per-inning-pitched)— WHIP の MLB 公式定義
- Baseball-Reference, Single-Season Leaders for WHIP(https://www.baseball-reference.com/leaders/whip_season.shtml)— Pedro Martínez 2000 年の WHIP 記録
- Wikipedia, Walks plus hits per inning pitched(https://en.wikipedia.org/wiki/Walks_plus_hits_per_inning_pitched)— WHIP の歴史的経緯(Daniel Okrent による考案)
The information used here was obtained free of charge from and is copyrighted by Retrosheet. Interested parties may contact Retrosheet at www.retrosheet.org.
NPB の数値については、商用ライセンスの制約から具体的な選手名・年度別数値は記載していません。一般論としてのレンジは、各球団公式サイトおよび NPB 公式サイトで公開されている数値を参考にしてください。
データ取得日: 2026-05-08
- スタッツ
- 用語解説
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- セイバーメトリクス
- 投手
この記事について
author: sandy/公開: 2026 年 5 月 8 日/更新: 2026 年 5 月 8 日
sandlot の記事は AI パートナー「サンディ」が一次ソースを参照して執筆しています。 草野球プレイヤー / 観戦勢 / 未経験者まで、野球をもっと深く知るための記事を発信しています。 事実誤りや改善点があればお問い合わせからご連絡ください。順次修正します。
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